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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)875号 判決 1967年7月06日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人納富義光の上告理由第一点について。

原審が確定した事実関係のもとにおいては、服部が保管を託されていた上告会社の代表取締役川本直水の記名印及び印鑑を使用してそれぞれ上告会社名義の本件約束手形二通を振り出した行為をもつて、無権代理とした原審の判断は正当である。

そして、商法二六二条は、同条所定の第三者が善意であるかぎり、表見代表取締役のなした行為の目的のいかんにかかわらず適用をみるものであつて、右表見代表取締役の意図が自己の利益を図るにあつた場合においては、第三者が右の意図を知りまたは知りうべかりしものであつたときにかぎり、会社は民法九三条但書の規定を類推し、この事実を主張、立証してその責を免れうるにすぎないものと解するのが相当である記録によるも、本件において、上告人は、被上告人についてかような事実を主張、立証したことは認められない。原判決のこの点に関する判示もこの趣旨に解しえられるから、原判決には所論の違法はない。論旨は採用に値しない。

同第二点について。

また、同条に基づく会社の責任は、同条所定の第三者が善意であるかぎり、たとえ過失がある場合においても、これを免れえないものと解すべきことは当裁判所昭和四一年(オ)第七七号・同年一一月一〇日第一小法廷判決(民集二〇巻九号一七七一頁)の示すところである。されば所論はその前提を欠き採用に値しない。

同追加について。

原判決は、本件各手形の受取人池田が善意で、なお、これにつき過失がなかつたことをも認定しているのであるから、所論はその前提を欠き採用に値しない。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)

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